【みんなで綴る百物語】~拾八の灯り~

企画
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あんた、

読み物や見世物は

好きかい?

 

他人の愚痴やなんかを

流し見るなんて無粋なモン

じゃなくてさ、

 

もっと……

人の人生を書き綴ったような

ちゃんとした物語の事さ。

 

あたしはさ、

歌舞伎や能なんて言う

品のいいモンは

見られなかったが、

 

見世物小屋でやるような

活劇が好きだったんだよ。

 

 

実際には生きちゃいない

人間の一生をさ、

まるで生きてたように語る。

 

在りもしないモンに

形を与えて、

ともすれば殺しちまう__。

 

なぁ、あんた。

 

芝居の中で

生まれて死んだヤツの魂は、

一体どこに在って

どこに行くんだろうね__?

 

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▼《拾八の灯り》:形のない生

 

私は中学生から

社会人になるまで、

とある小さな劇団に所属して

演劇を学んでいました。

 

これからお話するのは、

私が……いわゆる

『曰く付き』

とされる小劇場で体験した

本当の出来事です。

 

その劇場は、

時代に取り残された様な…

寂れた商店街の一角に

ポツンと佇んでいました。

 

雑居ビルの最上階、

3階のフロアをぶち抜く形で

造られた小さなホールの様な

その場所は、

 

暗幕を閉めると

本当に夜みたいに

真っ暗になりました。

 

そこで照明を点けると

影はより濃くなって……。

 

だからでしょうか。

 

私達は、

皆でワイワイ

小道具を作っている間も、

 

リハーサルを

行っている間も……

 

常に【誰かの声】や

【何かの気配】を、

本当に鮮やかに

感じ取っていたんです。

 

【何かがいる】

それは明らかでした。

 

でも誰も口には

出来ませんでした。

 

口にしたら、

もっとはっきりと聞こえ…

感じてしまう様な気がして。

 

ここにいる【誰か】に、

命を吹き込んでしまう様な

気がして。

 

私達は、

踏み込んではいけない場所と

触れてはいけない影に

怯えながらそれでも……

 

舞台の成功を願い

稽古に打ちこみ続けました。

 

本番まであと3日。

 

その日は初めて、

本格的な通し稽古に

挑みました。

 

出来栄え、

手ごたえ共に良好。

 

後は本番を待つのみ

といった雰囲気でした。

 

観客席の端で

通し稽古を見届けた私は、

一人団員たちの昼食を買いに

外へ出ました。

 

手早く近くのコンビニで

調達し劇場へ戻ると__。

 

さっきまで点いていたはずの

舞台照明が全て落とされて

いたんです。

 

なぜか、

団員達の話し声もしません。

 

「みんな?いないの……?」

 

私は、

暗幕の外側から

顔を覗かせたまま、

 

さも怖がっているかのように

暗闇に向かって

声をかけました。

 

(みんなが私を

驚かせようとしている)

 

「ねぇ、いるんでしょ……?」

 

私も演技を齧っている身……、

ここで引き下がる事など

許されません。

 

「ねえってば……。」

 

私は声を震わせながら

恐る恐る舞台の方へと、

歩みを進めていきました。

 

その時__。

 

「フフッ」

「はははっ!」

 

舞台の中央で屈んで

集まっているらしい団員達から、

笑い声が漏れました。

 

「もうやめてよ、
変な事しないで。」

 

彼らに気付いた私は、

怒った振りをしながら

入口近くにある

パネルスイッチに

手をかけました。

 

「わ~、白々しい」

「今そんな事言われてもねぇ」

「俺らアレで完全に
タイミング失ってるからな。」

「さっきの、何だったの?」

 

暗闇に慣れてきた私の目には、

皆が要領を得ない話をしながら

立ち上がったり

背中を延ばしたりする姿が

ぼんやりと映りました。

 

「……なんの話?」

 

言い様のない不安を

感じながらそう尋ねた私に、

団員が口を開きました。

 

『さっき一度、
帰ってきたよね?』

 

「そうそう。
一度帰って来て
黙ったまま私達の周りを
ぐるっと歩き回って、
出て行ったでしょ?」

「そんで、
すぐまた戻ってきた。
お前何がしたかったんだ?」

 

(それは私じゃない__。)

 

私はその言葉を

ぐっと堪えて飲み込みました。

 

そうです、

私は真っ直ぐコンビニへ行き

真っ直ぐ帰って来たんです。

 

一度も引き返していないし、

入り直してもいない。

 

黙りこくった私の雰囲気から

状況を察した団員達の顔にも

段々と戸惑いの色が浮かび始め、

 

気が付けば不自然な沈黙が

辺りを包み込んでいました。

 

アレは【誰】?

 

いたずらを仕掛けた

仲間の周りを……

 

まるで品定めでも

しているかのように

歩き回っていたのは、

 

一体__、誰?

 

私達はその後、

言葉少なに劇場の掃除と

片付けを済ませ逃げるように

その場を後にしました。

 

公演だけは無事に

終えられる様に__。

そう願いながら。

 

そして当日__。

 

準備とチェックを兼ねて

先輩と早めに劇場入りした私は、

控室で衣装の準備に

取り掛かりました。

 

しばらくすると、

両手いっぱいに抱えた

何人分かの衣装の向こうに、

チラッと人影が見えました。

 

その影は

衣装を並べる予定の控室の、

更に先にある音響ブースに

入って行った様に見えました。

 

「先輩、
私達以外にも誰か来て……」

 

私が言い切らないうちに

 

突然__。

 

劇中で使う為に準備してあった

オペラ曲“アリア”が、

劇場中に大音量で

響き渡りました。

 

思わず耳をふさいだ私と先輩は、

背中を丸めるようにしながら

音響ブースに急ぎました。

 

耳に突き刺さる様なボリュームで

響き渡る高音のアリアは、

痛みにも似た

不快感と焦りを伴って、

私達を取り囲んでいきました。

 

もちろん、

ブースの中には

誰もいませんでした。

 

「俺も見た……
今確かに誰かが入った。」

 

先輩は絞り出すように

そう言ったきり、

黙り込みました。

 

こんな事があっても、

私達は幕を上げる事を

選んだんです。

 

公演を中止する事など

出来るはずが

ありませんでした。

 

結果的に、

その日の公演は

とても成功とはいえない物に

なってしまいました。

 

上演中何人もの観客から

「上に顔が見える」
「垂れ幕と天井の
隙間に女がいる」

との声が上がり、

 

観客の中には逃げ出したり

泣き出す人もいて、

劇場内が半ばパニックの様に

なってしまったからです。

 

当時仲の良かった友人は

その日の公演に

彼氏を招待していたんですが……

気が付いたら

外に出ていたそうです。

 

急いで電話をしてみると、

「ごめん、無理。
あそこには戻りたくない。」

と泣きそうな声で

伝えてきたと言っていました。

 

あそこにいたのが何なのか…

誰なのか__。

 

今も私には分かりません。

 

でも、

あそこには何かがいる。

 

それは本当の事だと

今でも信じています。

 

 

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▼結び

 

“演じる”ってのは、

生み出す事に通じてる

んじゃないかねぇ。

 

生き物が生み出すのとは違う、

生み出す真似事って具合さ。

 

あくまでも真似事、

形がない。

 

でも、

そこには苦しみや憎しみ、

喜びや愛情が確かに刻まれる。

 

人形に魂が宿るって言うなら、

きっと芝居にも魂が宿る……

そう思わないかい?

 

芝居に宿った魂は、

自分が芝居の中で

死んでからも、

 

芝居の幕が降りてからも……

そこに在り続ける

んじゃないかねぇ。

 

魂だけが鮮やかな

形のない生のまま、

そこで色んな思いを

巡らせているんだろうよ。

 

考えてみるとさ、

劇場や映画館……

テレビの中にゃぁ、

そういう可哀想なヤツが

山積みになってる

って事だろ?

 

早く誰かが

弔ってやらないと……。

 

ほら__。

 

あんたもどこかで

形のない生を全うした誰かと

出会っちまう日が来るかも

知れないよ__。

 

※画像引用元
サンサンさんによる写真ACからの写真

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