【みんなで綴る百物語】~拾六の灯り~

企画
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あんた覚えてるかい?

少し前に話した

勘の良過ぎる“ばぁ”さんの話。

弟子が言いつけを聞かずに

欲をかいたら__……

なんていう、

何かの教えみたいなあの話さ。

あの“ばぁ”って人が

絡んだ話をもうひとつ、

思い出したんだ。

でもこっちは

気持ち良く終われない……

不思議で不気味な話だよ。

夢かうつつか……

記憶か幻想か……

まぁ、

幼い頃の思い出なんて

みんなそんなもん

なんだろうけど、

なぁ、

あんたなら…

今なら分かるだろう?

意味が分からない

ってのは、

実はものすごく

恐ろしい事なんだ

ってさ__。

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▼《拾六の灯り》:“ばぁ”の意思

祖母は、

とても魅力的な人でした。

難しい話をゆっくりと

噛み砕きながら、

ワクワクするような物語に

変えてくれたり、

簡単な話を

風船みたいに

大きく膨らませて、

ドキドキさせてくれたり……

私は祖母といる時間を

本当に大切に思っていました。

母が家を空ける時には、

祖母と2人……

内緒で美味しいお菓子を

食べながらテレビを見たり、

祖母の部屋で

私の知らない手遊びや歌を

一緒に歌ったりもしました。

私は、

『祖母に関する事で

知らない事などない』

そう言える位に

祖母の事を身近に分身のように、

感じていました。

祖母が寝泊りをしていたのは、

我が家の間取りで言う

一番奥の『仏間』でした。

父や母は、

祖母の暮らすその部屋を、

《奥の間》

と呼んでいました。

玄関から延びる

長い廊下の突き当たりに

位置する《奥の間》__。

その前の廊下は、

なぜか漆のように深い黒で

塗り上げられていて、

まるで、

何かの境界線が

引かれているかの様な

妙な違和感がありました。

もともと全体的に

薄暗くカビ臭かった

我が家の中でも、

ことさら陰湿な雰囲気を帯びた

その場所には、

誰が書いたのか分からない

不気味な神社の絵が

飾られていたのを、

よく覚えています。

こんな私でも、

何度か奥の間を前に

『怖い』

と感じた事があります。

廊下の途中で

玄関を背にして立つと、

不思議なざわめきのようなものを

感じる時があったんです。

もしかしたら

黒で塗り潰された壁が

そうさせたのかも知れません。

なんだか引きずり込まれる様な、

吸い寄せられる様な、

呼ばれている様な感覚に

陥る事があったんです。

そんな時には決まって、

祖母を大きな声で呼びました。

戸の向こうから

いつもと同じ祖母の声が

聞こえると、

毎回不思議と恐怖が

薄らいだんです。

__ある時期を境に、

祖母は体調を崩す事が

増えていきました。

実際はまだ祖母と言うには

若すぎる年だったにも

関わらず、

「少し横になるね。」

そう言って、

裏の間にこもる事が

増えていったんです。

私は本当に心配しました。

でも母は、

「休ませてあげて」

そう言って、

私を奥の間から……

祖母から遠ざけようと

していました。

(顔を見て励ましたい……)

私はそんな想いから、

隠れて奥の間へと

足を運びました。

軋む廊下を注意して進み

奥の間の前に辿りついた後、

ゆっくりと慎重に

戸に手を掛けました。

祖母が寝入っている時の事も考え、

音を立てないようにして

静かに戸を開けたんです。

__祖母は、

布団に入ってはいましたが、

寝入ってはいませんでした。

横向きに布団に入り、

わずかに上体を上げ布団を

捲っていたんです。

その姿はちょうど、

子供を寝かしつける為に

添い寝をしようとしている

お母さんのような姿勢でした。

ほんの一瞬、

私に布団に入る様

促してくれているのかと

思いました。

でも

そうじゃなかったんです。

よく見ると、

祖母の胸元には

先客がいました。

祖母の胸には、

鶏が産み落とすそれよりも

少し大きな青白い卵が

大切そうに抱かれていた

んです。

「おばぁちゃん、

それ何の卵?」

祖母は、

私の無邪気な問いに

驚いたのか大きく身体を

震わせました。

少しの間があって、

祖母は小さく言いました。

「幽霊の卵だよ」

その瞬間、

パカリと卵が割れ

人形のように小さな

女の人が這い出てきました。

よく見ると、

小さな幽霊は白装束のような

着物を身に着けていました。

ゆっくりと立ち上がり

布団の上を滑る様に

這い回る幽霊は、

粘液のようなもので

布団に這った後を

付けていきました。


私が覚えているのは

ここまでです。

あの……

小さな女の幽霊が

這って行った跡が、

地図によく似ている__。

そう思ったのが

この不思議な体験の最後

なんです。

その後、

気が付いた時には

私は祖母の枕元に座り…

祖母は仰向けに

横になっていました。

今見た光景は一体

何だったのか……

目を閉じ静かに

眠っている……様に見える

祖母を前にぼんやりと

考えていると、

突然、

私の脳裏にある人の顔

よぎりました。

そして、

それと同時に冷たい手で

背筋をゆっくりと

撫で上げられたような、

じっとりとした

寒気を感じたんです。

“ばぁ”だ。

私は座ったまま、

小さく後ずさりを

始めました。

“ばぁ”が、何かをした。

見つめていた祖母の顔が

段々と“ばぁ”の顔へと

変わっていくような気がして、

私は急いで目をそらし

引き倒すような勢いで

戸を開け裏の間を出ました。

それ以来、

あの日の真実を知る事は

出来ていません。

なぜ卵を抱いていたのか。

本当に幽霊の卵だったのか。

本当は、
何をしていたのか__。

今となっては、

全てが闇の中です。

でも、

「幽霊の卵だよ」

そう言った時の祖母の顔は

いたずらっ子のように

楽しそうで……

でもその目はとても冷たかった。

あの時、

奥の間には

祖母と私以外の誰かがいる

様な気配がしていて、

私は“ばぁ”の事を思い出した。

それは確かな事なんです。

祖母は

それからしばらくして

突然倒れ、

誰とも言葉を交わす事無く

意識不明のまま

亡くなりました。

私、

こう思っているんです。

あの時祖母は、

“ばぁ”を介して
誰かを呪っていた

んじゃないかと。

祖母は、

あの湿った薄暗い仏間で

密かに誰かに対する呪詛を

産み落としたんじゃ

ないかって__。

“ばぁ”に尋ねたなら、

答えを教えてくれた

のでしょうか。

祈祷師である彼女が

私の祖母に託した意思は、

きちんと役目を

果たしたのでしょうか__。

ほんの少し、

気がかりです。

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▼結び

全ては諸刃の剣だ。

なんだってそうさ。

言葉だって力だって、

使い方を間違っちまえば

自分や大切なもんを

危険に晒す事になる。

でも、それでも……

遂げたい想いや

成し遂げたい事がある__。

それが人間であり、

人間が背負うべき《業》

ってヤツなんだ。

だけどまぁ、

この話に関しちゃ

あくまでも当人の想像

でしかない。

本当に“ばぁ”ってやつが

呪いの類を他人に教えたのか

分かったもんじゃないし、

そもそも、

卵だなんだなんて

世迷言自体が夢だった

なんてオチもないとは

言い切れないだろ。

つまるところ、

__全部が全部

理解出来ない事…

分からない事ばかりだ

って事だよ。

あんたなら、

どっちを……何を

信じるんだろうねぇ__。

※画像引用元
サンサンさんによる写真ACからの写真

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