【みんなで綴る百物語】~拾伍の灯り~

企画
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生きてる人間達の中には

『生きる事は
死ぬ事よりも辛い』

なんて言うヤツがいるよねぇ。

 

あんたはどう思う?

 

生きる事は死ぬ事よりも辛い

と思うかい?

 

それとも、

死ぬ方が辛い

そう思うクチかい?

 

 

……まぁ確かに、

生きる事も死ぬ事も

辛い事には変わりない。

 

どちらの方が…なんて話は

堂々巡りになるだけ

かも知れないねぇ。

 

__なんだい、

あたしはどうなのかって?

 

そうだねぇ。

 

あたしは……

本当に辛いのは、

どっちでもない

と思ってるよ。

 

あたしはね、

本当に一番辛いのは__。

 

死んだ後……、

そいつが

『自分は死んだんだ』

と気付くまでの

短くて長くて……

途方もない一瞬だと

思うんだよ__。

 

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▼《拾伍の灯り》:還る場所

 

 

私の実家は東北の

海に面した

とても寒い場所にあります。

 

先祖代々住んでいる家は

大きく広い…

それはそれは見事な家

だったんですが、

 

その家が建てられている村は、

“村”と言うのも

はばかられる様な……

集落のような場所でした。

 

大きな町から離れたその村で、

身を寄せ合う様にして

暮らしていた人々の中には、

私の祖父母も含まれていました。

 

私の祖父は、

ずっと若い頃から

船に乗る事を生業にしていた

本当に強くて元気で……

とてもよく笑う人

だったと聞いています。

 

私が3歳か4歳位の頃、

祖父は乗船していた時に

起きた不慮の事故によって

突然片足を失う事になり、

 

義足での生活を

余儀なくされました。

 

その頃から、

祖父の笑顔は減り…

外に出る事も少なくなり…

ふさぎ込む事が増えていった

そうです。

 

私の両親は

そんな祖父を気にかけ、

私を連れて祖父母の住む

大きな屋敷を頻繁に

訪れるようになりました。

 

私がかろうじて覚えている

記憶の中の祖父は、

哀しそうに笑う人。

 

私の記憶には今も、

祖父の哀しげな目と

義足がたてる独特な足音が

鮮明に刻まれています。

 

私はその家が嫌だった

という訳ではありません。

 

でも何となく、

あの村に行く時には

気が進まない様な……

モヤモヤした気持ちに

なっていた様な気がします。

 

その後間もなくして、

祖父は寝たきりになりました。

 

原因は、

事故で負ったケガ__。

 

破傷風に感染してしまった

との事でした。

 

私は年齢が年齢という事もあり、

祖父が床に伏してからは

亡くなるその日まで、

 

顔を会わせる事は

ありませんでした。

 

祖父が息を引き取った後、

伯父さんや伯母さん……

親戚の皆さんが手を尽くして

 

祖父は真っ白な着物を

着せてもらっていました。

 

祖父を囲むようにしている

大人達の身体の隙間から覗く

着物の白さは、

 

不思議なくらいはっきりと

私の記憶にこびり付いています。

 

そうして祖父は、

私の父を含む数人の男の人達に

抱きかかえられる様にして、

大きな樽のような物に

入っていきました。

 

その瞬間、

身体の揺れに合わせて

祖父の首ががくりと

傾きました。

 

祖父の額に当てられている

白い布が小さく動きました。

 

私はその時久しぶりに、

祖父の顔を見ました。

 

哀しそうに

笑っていた祖父は、

 

怒っている

泣いている

苦しんでいる

 

そのどれにも

当てはまらない…

でもとても苦しそうな顔を

してたんです。

 

小さく開かれた
シワシワの口…
土色に変わった肌、
黒く塗りつぶされて
しまったように暗い目元、
やせ細った手足……。

 

どれを見ても、

その人が祖父だとは

思えませんでした。

 

そして、

祖父が入った樽はそのまま

男の人達に抱えられ、

ゆっくりと玄関へと進み

 

列を成して

墓地を目指しました。

 

私は母と手を繋ぎ、

列からだいぶ遅れて

歩を進めます。

 

列の先の方からは、

かすかにお坊さんのお経が

聞こえてきました。

 

私は黙ってぎゅっと、

母の手を握っていました。

 

そこには、

「帰りたい」

とすら言えない、

言う事を許さない空気が

ありました。

 

これがもしかしたら、

私が初めて感じた

【恐怖】

だったのかも知れません。

 

やがて……

葬列が小さな森を抜けた、

屋敷から歩いて15分程度の場所

にあるさびれた墓地で__。

 

祖父は樽に入れられたまま

弔われていきました。

 

そう__。

 

これは私が実際に見た

【土葬】

の光景です。

 

__その晩、

祖父母の家には

どこからともなく、

沢山のお客さんが

集まってきました。

 

ほとんどの大人達が、

互いに酒を酌み交わし

昼間とは打って変わって

陽気に笑いながら、

話に花を咲かせていました。

 

祖父の写真を囲む

ようにして……

 

もう祖父がする事のない

食事を楽しみ、

 

祖父が好きだった酒を飲み、

 

顔を赤く染めながら

大きな声で祖父の武勇伝を語る。

 

その光景は、

まだ幼い私にとっては

とてもおかしな……

理解出来ないものでした。

 

何となく

嫌な気持ちになった私は、

母に促されるまま

早々に風呂へと入り、

敷いてあった布団に

潜り込みました。

 

すると__。

 

不思議と急に

眠くなったんです。

 

私も私なりに

疲れていたんでしょう。

 

深い穴に落ちるように

ゆっくりと眠りに

落ちていきました。

 

そうして、

大人達もうつらうつらと

眠りこみ始めた

夜更け__。

 

遠くからかすかに

“何かの音”

が響いてきた様な気がして、

私は目を覚ましました。

 

コッ……カッ…コツン

 

 

その音に気付いたからか、

母もゆっくりと

身体を起こします。

 

私達は、

真っ暗な闇の中で息を潜め……

音の正体を懸命に探りました。

 

コッ……カッ…コツン

 

音は規則的に、

確かに近付いてきます。

 

その音の大きさに

応えるように、

私の心臓も鼓動を大きく

させました。

 

コッ……カッ…コツン

 

(近付いて来てる__、

おじいちゃんが。)

 

そう思った私は、

思わず母の身体に

しがみつきました。

 

恐怖に怯えた

私の背中に回された母の手も、

確かに震えていました。

 

コッ……カッ…コツンッ

 

それは、

もう聞こえないはずの、

義足の音

 

歩くはずのない人の…
もう聞く事のない
はずの足音。

 

次第に、

広間の方からも

声が漏れ始めました。

 

そこに居る皆が聞いた

祖父の足音は、

 

玄関先から勝手口…

裏口から縁側と、

ぐるぐる家の周囲を

回っているかのようでした。

 

音に気付いた全員が息を呑み

身を凍らせている間、

祖父の足音はずっと

所在なさげに響いていました。

 

私は段々と……

胸が苦しくなるような

寂しさを感じ始めました。

 

“帰りたい”

祖父の魂が発する

そんな想いを、

感じ取ってしまったのかも

知れません。

 

__その後、

私と母はそのまま

知らぬ間に眠りに落ち、

朝を迎えました。

 

もう祖父の足音が聞こえる事は

ありませんでした。

 

目が覚めてすぐ

母と広間に駆け込むと、

 

やはり他の大人達も

爺さんの足音を聞いた

そう口々に話し、

大きく戸惑っていました__。

 


 

__後から聞いた話ですが、

祖父の最期は壮絶なもの

だったそうです。

 

最期の一瞬まで

苦しみ抜いたせいか、

 

顔が強張ったまま

元に戻らなかったと、

母が涙目で語って

くれました。

 

その後も

祖母を土葬にて弔い、

 

とある縁でイタコさんに

お目にかかる機会があったりも

しましたが、

 

あの晩の体験に勝るものは

ありません。

 

今では祖父母共に、

お骨を拾いきちんと納骨を

済ませてあります。

 

穏やかにいてくれると

いいんですが__。

 

 

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▼結び

 

確かに、

土葬をすりゃぁ

身体は土に“還る”事が出来る

のかも知れないよね。

 

だけど、

魂や想いはどこに

“帰れば”いいんだろうね。

 

“還る”と“帰る”……

響きは同じでも、

その終着点は全く違う。

 

全く

不思議なモンだよね。

 

ところで__、

あんた最初にあたしが言った事、

覚えてるかい?

 

一番辛いのは、

死んだ魂が

『自分が死んだんだ』

と気付くまでだ

って話。

 

あたしは思うんだ。

 

土葬された老人はさ、

身体が埋められた後も……

魂だけになっても……

自分が死んだ事が

理解出来なかったんだろう

ってさ。

 

魂っていう

誰からも見えない、

誰にも触れてもらえない……

そんな状態になって、

 

一晩中、

家の周りを彷徨って

きっと届く事のない声を

上げ続けたんじゃないかね。

 

それでやっと、

気付いたんだよ。

 

自分はもう

この世にいないんだ

って事をさ。

 

あたしならこんな思いは

絶対にしたくないね。

 

弔い方の違いはあっても、

火葬にしろ土葬にしろきっと、

『自分は死んだんだ』

って気付く瞬間は

本当に辛いモンだと思うよ。

 

出来るならあたしは永遠に

経験したくないと

思っちまうねぇ。

 

※画像引用元
サンサンさんによる写真ACからの写真

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