【みんなで綴る百物語】~拾四の灯り~

企画
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隠し事ってのは、

本当に難しいモンだよねぇ。

 

些細なモンでも

そうでないモンでもさ、

なかなか最後までは

隠し通せないんだよね。

 

本人にからしてみりゃ

“絶対にバレやしない”

そんな風に思える事でも、

 

ひゃんな事から

尻尾を掴まれちまって……

てな事になる訳さ。

 

 

まぁ、

だいたいの隠し事は

そうやって、

ある程度時間を空けて

バレちまうのが定石だが……。

 

__今日あんたに語るのは、

隠し事を“隠す”前に

見抜いちまう__。

そんな不思議な

ばぁさんの話さ。

 

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▼《拾四の灯り》:“ばぁ”

 

私の家には、

代々お世話になっている

祈祷師様がおられました。

 

ですが、

祈祷師……と言っても

神社などに神職として

身を置くような方ではなく、

 

〈自分を慕い集う人々に

教えを説く__。〉

そんなお立場の方です。

 

凛とした雰囲気で

淀みなく言葉を紡ぐその方は、

 

幼い私にとっては

“不思議な力を持った

すごいおばぁちゃん”

でした。

 

そんな彼女は周囲の人々から

“ばぁ”

と呼ばれていました。

 

私の祖母は、

かなり若い頃から

その“ばぁ”に全幅の信頼を

置いていました。

 

大切な物事が差し迫った時

だけでなく、

普段から“ばぁ”を頼って

彼女の元へと足しげく

通っていたんです。

 

“ばぁ”を慕う祖母の

孫に当たる私も、

もちろん姉共々幾度となく

“ばぁ”の元を訪れました。

 

“ばぁ”は毎回、

訪ねてきた私達を

広い座敷に座らせ、

経典で肩や頭を叩き

祈祷を行ってくれました。

 

その祈祷の最中は、

痛くもないのに
涙が溢れて止まらなくなる
日によって痛みを感じる日と
そうでない日がある

など不思議な事が

度々起こっていたので、

 

「“ばぁ”ってすごいよね!!」

当時の私はそんな話を

姉に何度もしていたものです。

 

そんな“ばぁ”には、

数人のお弟子さんが

付いていました。

 

お弟子さん達は

皆で持ち回りを決め、

“ばぁ”の身の回りの世話も

焼いていたそうです。

 

ある日、

“ばぁ”が遠方へ足を運ぶ事になり

お弟子さんたちで

“ばぁ”の家の留守を預かる事に

なったそうなんです。

 

お弟子さん達は昼と夜、

時間を決めて“ばぁ”の家を

管理しようと決めました。

 

留守を預かって2日目の夜、

番をしていたお弟子さんが

ふと思い出しました。

 

(そういえば……“ばぁ”様、
ずいぶん前に
「高価な名酒を隠し持っている」
なんて言っていたなぁ。)

 

時は昭和……

人々が退屈を

持て余していた時代です。

 

(よぉし、どれどれ……
その名酒とやらを
探してみようじゃないか。)

 

その人は本当に

純粋な好奇心から……

退屈しのぎにでもなれば__、

そんな軽い気持ちで

腰を上げたそうです。

 

そしてほんのわずかな家探しで、

“ばぁ”が大切に

しまっているはずのお酒は

あっけなく見つかって

しまいました。

 

魔が差した__。

まさにそんな言葉が

似合っていた事でしょう。

 

彼は少し迷いながら、

目の前の瓶を

手に取りました。

 

瓶の中では

たっぷりの酒が

波打ちます。

 

(ほんの少しなら……)

 

彼は居間のちゃぶ台に

置いたままにしていた湯呑みに

ほんの少しだけ__、

酒を注ぎました。

 

ふんわりと香る

甘さを帯びた酒の香りが、

彼の中に息づいてしまった

やましさを大きく

膨らませていきます。

 

彼は、

湯呑みの中の酒を

喉の奥へと流し込む前に……

 

まるで何かに

急かされてでも

いるかのように……

 

慌てて酒瓶を元の場所に

戻しました。

 

何もなかったかのように。

 

そして、

小さく息を吐いてから

湯呑みに口を付け……

ひと思いに飲み干しました。

 

その瞬間。

 

「ジリリリリリ……」

 

今は懐かしい

電話のベルの音が、

けたたましく鳴り響きました。

 

彼は大きく身を縮めたかと思うと、

今度は小さく小刻みに

震え出しました。

 

その間も

電話のベルは規則的に

彼を呼び続けます。

 

「も、もしもし……」

 

震える手で受話器を上げた彼が

かろうじて絞り出したその声は、

消えてしまいそうな程に

小さなものでした。

 

相手は何も言いません。

 

わずかな沈黙の後、

受話器から聞き慣れた…

けれどどこか冷たい声が

響いてきました。

 

「お前……
何を飲んでいるんだい?」

 

彼は全身を強張らせ

自分の耳を疑いました。

 

すると、

そんな自分を

見ているかのように

電話の向こうの“ばぁ”が

小さく笑いました。

 

「この私を相手に、
本当に隠し通せると
思ったのかい?」

 

__それ以来、

そのお弟子さんは

自分の行いを恥じ、

〈本当に頭が上がらない……、
“ばぁ”様には嘘も隠し事も
出来やしない。〉

そう繰り返していたそうです。

 


 

私がこの話を聞いたのは

大人になってからの事で、

その頃にはすでに

祖母も亡くなっており……

 

“ばぁ”とはすっかり

疎遠になっていました。

 

今はもう“ばぁ”も

この世界にはおられないと

思いますが、

 

出来る事なら……

色々分かるこの年齢になった今、

もう一度お会いしたい__

そんな風に思います。

 

 

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▼結び

 

参っちまうよね、

こんな人間がいたなんてさ。

 

あんた達みたいな

煩悩にまみれた人間にとっちゃあ、

大事件なんじゃないかい?

 

【隠し事が出来ない】

なんてさ。

 

でもきっと、

この魂は今も似たような力を

持って生きているよ。

 

新しい人生の中でさ、

同じ様に相手を惹き付け…

その魂を見通して……

道を指し示してやってるはずだ。

 

案外、

あんたの近くで

同じ時を生きているかも

知れないよ?

 

__あんたの隠し事、

バレちゃいないと

いいけどね。

 

※画像引用元
サンサンさんによる写真ACからの写真

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