【みんなで綴る百物語】~拾壱の灯り~

企画
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あんた、

日が暮れる直前の

夕暮れ時の事を

『逢魔時(おうまがとき)』

って言うのを知ってるかい?

 

昼と夜の狭間…その一時だけ、

光と影__生と死、

《安寧(あんねい)と混沌(こんとん)》

が交わるんだ。

 

どこからともなく

湧き出した暗いモンが、

底知れない不安を連れて

蠢(うごめ)き、蝕(むしば)み……

やがて光を完全に喰っちまう。

 

そうやって夜毎、

世界は夜…つまり“闇”に

染められるのさ。

 

皮肉だよねぇ。

 

あんたが毎日見ていた……

ともすりゃ、

“キレイだ”

“映える”

だなんだと抜かして

うっとり眺めていた夕日が、

 

ヤツらを誘い出す罠

みたいなもんだった

なんてさ。

 

でも夕日ってさ、

時々苦しくなる位に

綺麗に見える時があるだろ?

 

あぁ言う時はいいんだ。

 

生きてるヤツも、

死んでるヤツも、

どっちでもないヤツも。

 

皆が夕日を浴びて

苦しくなればいいんだよ。

 

それぞれ

色んな想いを抱えてさ……

 

胸を押さえて

夕日を見上げりゃぁ

いいんだ__。

 

そうして、

蠢く闇に取り込まれ

ちまえばいい__。

 

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▼《拾壱の灯り》:黄昏時にお別れを

 

私が

生まれてからずっと

住んでいた街は、

ちょっと不思議な所でした。

 

おかしな噂があったり、

思わず首をかしげてしまう様な

事件や事故があったり……

 

皆がごく自然に、

“見えないナニか”

“あり得ない事”

信じている__。

 

そんな不思議な街

だったんです。

 

ですが私はどうしてか……

そんなような体験とは

無縁のまま、

大人になってしまいました。

 

小学生の頃、

同級生が口々に

 

「誰かに肩を叩かれた」
「絶対何かいる」

 

そんな風に語っていた

小さな廃病院を

探検した時でさえ、

私はどこか冷静なまま。

 

恐怖や不安を身を持って

体験する事は

ありませんでした。

 

これは、

そんな私が

生まれ育った街を

離れる前に体験した、

夏の終わりの

出来事です__。

 

私は高校に入学してすぐの頃から

その街で一番大きな書店で

働いていました。

 

建物は3階建て、

売り場は2階までで

3階には従業員の休憩室と

事務所を構えていました。

 

私がこの書店に

勤務していたのは、

アルバイト時代を合わせると

6年と少し……。

 

気がつけば立場も一番上、

雑用から責任を伴う業務まで

毎日山ほどやる事を

抱えて過ごす日々でした。

 

その日は丁度、

後輩への最後の引き継ぎが

一段落した日でした。

 

生まれ育った街と

慣れ親しんだ勤務先を

離れようとしていた私は、

ほんの少しナーバスに

なっていたんだと思います。

 

自分の中にぽっかりと

穴が開こうとしている

という事は分かっていても、

 

それを埋められる安心感や

自信を手にしていなかった私は、

言いようのない不安に

襲われていました。

 

(本当にこれで

良かったんだろうか……。)

 

__唐突にふって湧いた

転職の誘いは、

東京に住むいとこからの

ものでした。

 

「うちの会社の総務が

人材を探してるの。」

 

今でも仲のいい

2つ年上のいとこが、

数年ぶりに

地元に帰って来た日の夜、

 

賑やかなチェーン店の

居酒屋の隅で突然に

そう言われたんです。

 

地元に…よりにもよって

アルバイト先に……

そのまま就職してしまった

冒険心のない私を見かねて、

 

活動的な彼女が

手を差し伸べてくれた

ような形でした。

 

「そうなんだ、

私にもできるかな…?」

 

その時の私は、

少し酔っ払っていました。

 

だからいつもよりほんの少し、

気が大きかったんだと

思います。

 

だから今になって、

迷っているんだと

思います。

 

でも、

今更引き返す事など

出来はしない事は、

私にもよく分かっていました。

 

それでも、

途方もなく次から次へと

湧き上がる不安を

拭いきれないまま、

 

私はひとり、

貼り替える予定の

新しいポスターを片手に

 

事務所がある3階で

エレベーターが来るのを

待っていました。

 

エレベーターの正面に当たる

壁に寄りかかり、

 

なんの気なしに

後ろ手にしていたカギで

壁に適当なリズムを刻みながら。

 

すると、

横にあるはめ殺しの大きな窓から

差し込んだオレンジ色の夕日が、

私の姿を鮮やかに

染め上げていきました。

 

よく、

夕日を『燃えるような色』

なんて言いますけど、

この時の夕日は

まさにそんな感じでした。

 

私は、

初めて目の当たりにした

その美しくも不気味な存在感に、

思わず目が離せなくなって

しまいました。

 

炎のような鮮やかなオレンジと

それが作り出す真っ黒な影に、

ほんの少し

胸騒ぎを覚えた時__。

 

コンコンコン……

と、

何かを叩く様な小さな音が

誰もいないフロアに

響きました。

 

私はその瞬間、

ビクッと大きく

身体を震わせた後、

あまりにも単純な自分の反射に

小さく笑ってしまいました。

 

私、

忘れていたんです。

 

自分が壁をカギで叩いて

リズムをとっていた事を。

 

本当に恥ずかしくなりました。

誰もいなくて良かったと、

そう思った位です。

 

(この夕日が全部悪い__。)

 

ばつが悪くなった私が

言い訳交じりに

小さく息を吐いた瞬間__。

 

コンコン……コン

私が叩いた壁の向こうから、

小さく壁を叩く音が

したんです。

 

壁の向こうは休憩室__。

 

もしかしたら……

 

まだ遅い休憩を

とっている従業員が

いるのかも知れない。

 

私が叩いた音に

ふざけて叩き返してきた

のかも知れない。

 

そう思ってはみたものの、

扉を開ける勇気は

ありませんでした。

 

静かに休憩室の扉に近付き

室内の気配を探ってみても、

当然……誰かがいるような

雰囲気はありません。

 

(なんだ…

私が叩いた音が

響いただけかな…。)

 

仕切り直し…とばかりに

手にしていたカギで

でたらめなリズムを刻んで、

ふと気が付いきました。

 

返って来た音には

妙な間があった事を。

 

あれは

私が出した音じゃない。

 

誰もいない休憩室で
誰かが私に返した、
声なき声__。

 

私がそう確信した途端、

背筋を一気に

寒気が走りました。

 

夕日が落ちきる寸前の

エレベーターロビーでは、

 

深い深い闇の隙間で、

頼りなさげな夕日の残骸が

チラチラと最期の火を

燃やしているようでした。

 

儚げな夕日の残り火が

私の不安をひたすらに

煽ってきます。

 

こんな時に限って、

エレベーターは

なかなか上がってきては

くれません。

 

(早く……!!

早く来てよ!!)

 

やっと来たエレベーターの扉を

私は半ば自分の手で

こじ開けるようにして、

中へと乗り込みました。

 

1階に戻り扉が開いた時に

浴びた蛍光灯の明かりは、

この世のものとは思えない位に

明るく安心感に満ちていた事を

今でもありありと

覚えています。

 

生きた心地のしないまま

私がエレベーターを出た

 

その瞬間

 

私は、

突然大きなナニかと

すれ違いました。

 

そのナニかは……

とても品のいい

中年男性“のような姿”

していました。

 

彼は妙に丁寧な所作で

エレベーターに

乗り込んでいきましたが、

 

私は振り返る事はおろか、

前に進む事さえ

出来ずにいました。

 

私の後ろで静かに扉が

閉まり始めるまで、

震える膝を抑えている事しか

出来なかったんです。

 

私は背中で彼を見送った後、

そのまま絨毯に

ひざから崩れ落ちて

いきました。

 

__私と彼は、

顔を合わせてはいない……

と思います。

 

彼の顔は

ぼんやりと……

黒い霧のように霞んでいた

様な気がしたから。

 

でも__。

 

彼がスーツを着ていた事と、

ぶつかったはずの彼の肩に
全く感触がなかった事

だけははっきりと

覚えています。

 

私その後……

何となく分かったんです。

 

彼は__、

夕日を目指して行った

んだって。

 

彼からはまるで……

夕日の向こうに

探しているものが

あるかの様な__、

 

確かな意思を

感じたんです。

 

 

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▼結び

 

どんな場所・世界でも、

境界や狭間には

必ずよどみが溜まる__。

 

生きてるモンは

そこに不安や恐怖を見出し、

 

死んでるモンは

その先に救いと安寧を求める。

 

昼と夜の間だって立派な狭間だ、

確かによどみは溜まっていく。

 

でもそこには、

夕日って言う

“光”があるだろ?

 

夕日は

言ってみりゃぁ、

 

昼と夜っていう

終わりと始まりを繋ぐ

みたいなもんだ。

 

よどみを越えて

その先に逝く為の橋__。

 

だから彷徨っている様な

ヤツらは夕日に

群がって来る。

 

橋を越えれば、

新しい世界に行ける

そんな風に思ってさ。

 

ヤツらも案外

あんたやあたしと

同じように__、

 

苦しい位の

遣る瀬無い思いで、

夕日を見ているのかも

知れないよ__。

 

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※画像引用元
サンサンさんによる写真ACからの写真

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